ベトナムへは、深圳航空を使って行く。トランジットは深圳だ。
「入国はせずとも、何か深圳を感じたい」という一心で、私たちのターゲットはただ一つ、広東料理だった。
すでに店じまいを始める店員さんの姿もちらほら見え、レストラン街は閑散としている。早くも暗雲が立ち込めるが、初の中国にアドレナリンは全開だ。
長時間フライトの疲れも吹き飛び、広東料理への執念を燃やしながら空港内を練り歩く。きっと名物のレストランがあるはず。空港のフリーWi-Fiを繋げようとするが、全部中国語表記だ。翻訳しようとするも、なかなかうまくいかない。解読を諦め、自分たちの五感を頼りに空港内を練り歩く。これも旅だよね、自分たちの力で見つけよう。

友達なのか、他人同士なのか、分かりづらい距離感。
端っこから端っこまで2往復もした。
うん、やっぱり無い。広東料理が無い。
可愛らしいカフェ、見慣れたスターバックス、そしてどこの地域の料理か判別できない中華料理店。それでも諦めきれない私たちは、搭乗口から一番近い中華料理のレストランを選んだ。「中華料理なら、一品ぐらい広東料理があるんじゃないか?」淡い期待を抱き、店員さんに英語で尋ねてみる。しかし、まさかの英語が通じず。
厨房の奥から、店員さんが翻訳機を引っ張り出してきてくれた。慣れない操作に戸惑いながらも、私たちが何を求めているのか、一生懸命理解しようとしてくれる。なんていい人なんだ。
そうだ、私たちはお互い漢字を使う者同士だ。言語が通じないなら、文字で書いてみよう。リュックの奥底にあったボールペンを引っ張り出し、手の甲に「広東」と書いて、ダメもとで聞いてみた。すると、私たちの真剣な表情と、たどたどしいながらも伝わった漢字から、店員さんはすぐに何を求めているのか理解してくれたのだ。言葉が通じなくとも、漢字という共通の文字で意思疎通ができたことに、心底感動した。

手の甲に「広東」と書いて、ダメもとで広東料理があるか聞いてみた。
しかし、その答えはやはり「ノー」。広東料理への道は、この夜も閉ざされたままだった。
この「不完全燃焼」こそが、きっと次に繋がるサイン。
私たちがまた中国に戻ってくる理由ができた。
Leave Comments